勤務医採用の基準
ある大型の歯科医院の院長と、勤務医の採用の話をしました。
その院長の採用基準は「変わった奴」。
面接をしたとき、ちょっとクセがあったり、ぎこちないくらいの人材を採用するそうです。
それこそ変わった基準なので、理由を聞いてみると……
以前は「できるだけ若くて、さわやかで、人柄のよさそうな人」を選んでいました。
ただ、そんな人は、それほど教えなくても勝手に仕事を覚えて、3年もしないうちにあっさり辞めていきます。
変わった人を雇うと、最初はとっつきにくく、教えるのも時間がかかりますが、結果として長く働いてくれることが多いのです。
歯科診療以外の仕事が苦手な人
歯科医師はもともと独立開業を前提とした職業です。
自分の医院を開業する、一国一城の主になるために、この職種を選んだ人がほとんどです。
だから、仕事を覚えたら、やめて開業するのが当たり前なのです。
ただ、中には、開業して診療以外にやるべき仕事が苦手な人もいます。
スタッフに仕事を教えること、ほめること、しかることは大変です。
その他にも……
・給料や昇給の決定
・求人募集と採用
・患者さんを集める労力
・クレームの対応
など、診療以外にやるべき仕事は多岐に渡ります。
人あたりのいい人は、そうしたこともこなしていくので、やがて独立していきます。
対して、ちょっと変わった人の方が、「こうしたことに時間とエネルギーをかけるのが苦痛」「それより診療だけをしていたい」「煩わしいことにエネルギーをさきたくない」など、診療以外のことをやりたくない人材の可能性が高いので、この採用基準になったそうです。
勤務医が必要な医院は、診療以外をやりたくない人材を集められると、上手くいきます。
話を聞いて思わず納得しました。
育ててくれた院長に感謝を
そうは言っても、みんな残る訳ではなく。
最初は何もできなくて、患者さんと話すときでさえ、目も合わせられなかった勤務医。
時間をかけて辛抱強く教えて、ようやく診療がこなせるようになっていきました。
すると自信がついたためか、患者さんとも明るく話すようになりました。
すると翌年、やはり開業することに。
院長としては残念でもあり、成長を嬉しくも思う、複雑な心境だそうです。
そんな話を聞くと、一人前になるまでに相当の労力をかけて育てているのがわかります。
今、勤務医の先生は、いつか開業して辞めることは仕方ありません。
ただ、それまで情熱をかけて教えてもらった院長に、感謝の念をもって退職することが大切です。
執筆:税理士 森川 敏行(プロフィール)