歯科矯正料の計上時期
このところ、アライナー矯正などが増え、一般歯科でも矯正をするケースが増えてきました。
矯正歯科の装置・基本矯正料は収入の計上時期が難しく、契約書を正しく書かないと、思わぬ税金を支払うことになりかねません。
人的役務の提供による収入計上は、その役務の提供が完了したときが原則です。
ただ、矯正歯科はブラケットを取りつけて2年から3年、リテーナーも1、2年と長くかかります。
その間の治療費も受け取り方が様々なので、扱いが難しいのです。
国税庁の取り扱いをみると、下記のようになっています。
基本料等の収入計上時期については、歯科医師と患者の契約の実態に応じ、次のとおりとなります。
① 矯正装置の装着など一定の役務の提供を行った時に基本料等の全額について請求し受領することとしている場合には、基本料等の全額についてその一定の役務の提供を了した日の収入金額とします。
② 期間の経過又は役務の提供の程度等に応じて、所定の基本料等を請求し受領することとしている場合には、その期間が経過した日又はその役務の提供を了した日の収入金額とします。
③ ①及び②以外の場合はそれぞれ次によります。
イ 支払日が定められている場合には、その支払日とします。
ロ 支払日が定められていない場合には、その支払を受けた日(請求があった時に支払うべきものとされている場合には、その請求の日)とします。
ハ ただし、イ及びロのうち、支払日が矯正治療を完了した日後とされているものについては、矯正治療を完了した日とします。
(所得税法第36条、所得税基本通達36-8)
国税庁 歯科矯正料の収入すべき時期 より引用
具体的な扱いとしては、装置をセットした日に基本矯正料を全額収受することにしていたら、そのセット日に収入を計上します。
治療の経過に応じて、分割でもらう契約になっていたら、その分割払いのそれぞれ収受すべき日に収入を計上します。
歯科矯正契約書の記載方法
難しいのは、こうした取り扱いを契約書に書面で記載するのが不十分な医院の場合です。
例えば「基本矯正料70万円 10万円×7回払い」という記載しかない場合。
この記載だけでは、装置をセット時に70万円の売上が確定し、それを10万円ずつ分割で受け取ると判断することもできます。
税務調査でも、セット時に全額を収入計上すべきと言われることがあります。
そうなると、期末に相当な額の未収金が発生します。
もし未収金が1,000万円あれば、所得によっては500万円の税金を支払うことになります。
あくまで10万円ずつの治療費を経過に応じて、受け取る書面にしなければなりません。
そのため「期間の経過により」や「治療の工程に応じて」などの文言をいれて、それぞれの日に治療費を受け取ると契約書に書く方がスムーズに説明できます。
そして、患者ごとの契約書に「工程に応じた分割」「一括」とはっきり区分を書いておきましょう。
いただく治療費は同じでも、契約書の書き方で支払う税金が変わることがあります。
矯正治療の金額は大きいので、契約書を正しく作成して、患者さんに説明しましょう。
執筆:税理士 森川 敏行(プロフィール)