歯科医院の親子承継

歯科医院の親子承継

最近、歯科医院の承継の話が増えてきました。
このコラムでは、親子での承継について難しいのはどんなところか? 解説していきます。

30代の歯科医師で、親も歯科医院を営んでいる方がいました。
子は東京の歯科医院で働いていましたが、親から「そろそろ戻って来てくれないか」「体がきついので辞めたい」「医院を引き継いでほしい」と言われました。
悩んだ末、地元に帰って歯科医院を引き継ぐ決心をしました。

実家の医院に帰りましたが、意外と親は元気です。
弱っているどころかバリバリ仕事をしています。
最初は大人しい物言いでしたが、1週間もすると本来の親らしく厳しい口調になりました。
「東京で何を教わってきたのか」「まだまだ半人前だな」などと言われると子も腹が立ち「親父のやり方は古臭い」と反論します。

そうして親子喧嘩が始まります。
喧嘩が半年続いた後に、子が出ていきます。
「親父の歯科医院は継ぎたくない」という言葉を残して。

これは決して珍しい話ではありません。と言うよりよくある話です。
親子はお互いの距離感が難しいのです。
プライベートはともかく、仕事中は一定の距離をもって接しないといけません。
親も勤務医を雇用するときの接し方ができていません。
もし赤の他人を「半人前」と言えば、辞められても仕方ありません。
子も勤務先の院長に「やり方が古臭い」なんて言えばクビになって当然です。
お互い他人には言わない言葉を、親子だからと思って使うと揉め事の原因になります。
たとえ親子でも勤務時間中は一定の距離を持って接する必要があります。

親の立場からすると、子に引き継がせるつもりで呼びましたが、いざリタイアしようとすると勇気がいります。
子に院長を引き継がせて廃業すると、自分の人生も終わった気がします。
その後の生活のイメージがつきません。
今まで歯科医院の院長と呼ばれていたのが、リタイアすると単なる老人になります。
なかなか決心がつきません。
自分が65歳になればリタイアすると言っていた院長が、その後70歳に変更して、さらに75歳でようやく決心がついたケースがあります。

子が30代だとやる気があります。
自分のカラーを出した新しい歯科医院を立ち上げる意欲があります。
問題になるのは権限とお金です。
最終的な権限を握るのは誰か。
親が権限を握ったままだと、子は親にお伺いを立てることになります。
子の意向がすぐ通れば良いですが、親の反対が続くと子のやる気がなくなります。

お金も親の口座のままだと、親の同意が必要になります。
子の銀行口座で自分が金融機関から借りると、自分で資金調達をして設備投資ができます。
子の判断が正しい保証はないので、過剰な設備投資が原因で苦しむこともあります。
だからと言って否定ばかりすると子のやる気がなくなります。
子が50代になって院長を交代しても、子のやる気がなくなるともう何もしません。

どのタイミングで権限移譲をするか。これがとても難しいです。
最初に権限とお金を渡せば良いのですが、親が65歳前後だともう少しやりたい気持ちがあります。
子も30代の若い時ならバリバリやれますが、50歳を過ぎると情熱も無くなります。
お互いの年齢が一致すれば良いですが、ずれることが多いのが実情です。
事業承継は双方の年齢のミスマッチが悩みです。

親が権限とお金を子の自由にさせられるのはいつか。
子のやる気のあるときに引き継がせることができるか。
このあたりが親子での歯科医院承継のカギになるので、双方でしっかり話し合って納得のいくタイミングで承継します。
このタイミングが難しければ、変に承継せずに別の場所で歯科医院を開業するのも一つの方法です。

歯科開業に成功しやすい年齢について解説したこちらのコラムもあわせてご覧ください。

執筆:税理士 森川 敏行(プロフィール

タイトルとURLをコピーしました